『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(末永幸歩)読了

『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』末永幸歩著

 タイトルを見て「なぜ13歳なんだろう?」と思っていたのですが、プロローグに種明かしが。

著者である末永さんは「美術への苦手意識が生まれる分岐点が13歳ではないか」という仮説をもっているのだそう。13歳と言えば中学校1年生ですね。

その根拠が、小中学生に聞いた好きな教科についての調査結果です。小学校から中学校の変化を見ると、美術は下落幅が全教科の中で1位で「最も人気をなくす教科」らしいのです(p.9参照)。

 

思い返してみれば、たしかに美術の授業で絵を描くのはあまり好きではなかったような気がします。絵の上手な人の作品の隣に自分の作品が並べられるとなんとなく恥ずかしい思いがありました。

私は昔から絵を見るのは好きでした(1日に展覧会を2~3件はしごするくらい好きです)。ただ、描くのは今でも苦手意識があります。

 

この本を読んで印象に残ったのは次の2つです。

 

アートを見てアウトプットするときの”2つの問いかけ”

この本では、自分の目で作品をよく見る「アウトプット鑑賞」というやり方が出てきます。そしてアウトプット鑑賞を一段と面白くする秘訣として、

「どこからそう思う?」

「そこからどう思う?」

という2つの問いが紹介されています。前者は主観的に感じた「意見」の根拠となる「事実」を問うもので、後者は作品内の「事実」から主観的に感じた「意見」を問うものです。これらの問いを自分にぶつけてみることで、新たな気づきがあったり、自分なりのものの見方に基づいた自分の答えが見えてきたりするそうです。

 

ちょっと話がそれますが、私は美術館で絵を見るのが好きで、「美術館へのアクセスがいい」というのが大学を選ぶ理由の一つになったくらいでした。私の、展覧会での作品の楽しみ方の変遷はこんな感じです。

 

すべての作品について作品の横にある作品カード(作品や作者のエピソードなどが書いてあるもの)を読みつつ絵を鑑賞する

  ↓

音声ガイドを借りて、目玉作品についてはそれを聞きながら絵を鑑賞する

  ↓

音声ガイドは借りず、作品カードもそれほど読まず、全体をざっと見て回ってから気になった作品をもう一度見に行く

  ↓

各部屋の中心に行ってぐるっと見渡し、「いいな」と思った作品の前でじっくりとその絵と向き合う

 

音声ガイドや作品カードは、展覧会初心者のときはお世話になっていました。そのおかげで背景知識のようなものもある程度手に入れることができました。ただ、そこまで心の琴線に触れない作品でも音声ガイドが設定されていると「(せっかく借りたんだし)ガイドを聞かなければ」と感じるようになりました。なんとなく自分の中で鑑賞を妨げるノイズになっているような気がしたので、ある時から音声ガイドを借りるのも、作品カードを端から端まで読むのもやめてしまいました。

 

そして、気に入った作品の前でじっくりその絵と向き合い、「どこが気に入ったんだろう?」と考えてみるという鑑賞方法にだんだんシフトしていきました、しかし、なかなか自分の中の”お気に入りポイント”を言語化できずモヤモヤしていました。

 

このモヤモヤが上記の2つの問いとの出会いで少しすっきりしました。今度美術館に行ったら、気に入った作品の前でこの2つの問いを自分に投げかけて、作品とのやりとりを楽しんでみたいと思います。

 

また、私の専門である国語の授業でもこの2つの問いは使えそうだなと感じました。4月以降できそうなら授業で取り入れてみようかな…

 

 

自分も”花職人”ではなく”アーティスト”になれるかも!

本書では、アート思考を構成する3つの要素を「アートという植物」のたとえで説明しています。アートと言えば作品として目につきやすい「表現の花」ばかり注目されがちですが、アートの大部分は自分の中に眠る興味・関心・疑問などの「興味のタネ」や自分の興味に従った探求の過程である「探究の根」なのだそうです。

 

「花職人」と「アーティスト」の違いはストンと腑に落ちました。

「花職人」は、「興味のタネ」から「探究の根」を伸ばす過程をないがしろにして、「タネ」や「根」のない「花」だけをつくる人です。(中略)

しかし、彼らが夢中になってつくっているのは、他人から与えられたゴールに向かって課題解決をしている人―それが「花職人」なのです。

他方、「真のアーティスト」とは「自分の好奇心」や「内発的な関心」からスタートして価値創出をしている人です。(pp.299-300)

「自分の興味・好奇心・疑問」からスタートして、「自分のものの見方」で世界を見つめ、「自分なりの答え」を生み出すことができれば、誰でもアーティストになれると知り、「私もアーティストになれるかも!」とちょっとワクワクしました。

 

アート思考を育むためには美術が最も適しているのでしょうが、私が4月以降担当する国語の授業でも子どもたちのアート思考を育てることができるかもしれないと感じました。

 

自分が学級担任になったときに学級文庫に置きたい本がまた1冊増えました。