『グリーン・グリーン』(あさのあつこ著)
主人公と自分の共通点が多いと、主人公に自分を重ねて読んでしまいます。
『グリーン・グリーン』の主人公である翠川真緑(みどりかわみどり)は、
・新任の女性教師
・高校の国語の先生
・農業高校に赴任
・失恋したばかり
↑主人公に自分を投影したのは、瀬尾まいこさんの『図書館の神様』以来ですが、自分と重なる部分がこんなにあって逆にびっくりです。
主人公の真緑さんは結婚を考えていた恋人に振られ、絶望の淵にいました。
死のうとは思わなかったけれど、生きていても輝かしいことなど何一つ無いようには感じられた。自分が憐れで、自分を憐れむ自分が情けなくて、苦しい。恋人を失っただけで世界の半分が消滅したような感覚が突き刺さってきて、痛い。(pp.37-38)
この「自分を憐れむ自分が情けない」というフレーズには強く共感します。地面にそのままずぶずぶと沈み込んでしまいそうなほど落ち込んでいる自分自身と、それをはたから見ているような自分がいるような感覚。
喫茶店で別れを告げられ、喫茶店を出てふらふらと歩き回り、ふと我に返るとまた同じ喫茶店の前に来ていました。そこでマスターが出してくれたおにぎりに、真緑さんは衝撃を受けます。
え?
大きく目を見張る。
美味しい。驚くほど美味しい。米一粒一粒がしゃんと立っている。そのくせ、軟らかく、一口ごとに米の甘さが広がった。
美味しい、美味しい、美味しい。
お米って、こんなに美味しいものなの?
海苔って、こんなに香ばしかった?
美味しい、美味しい、美味しい。
握り飯には軽く塩をふってあった。それが、米そのものの甘みを引き立てる。米に味があることを真緑は、初めて知った。
美味しい、美味しい、美味しい。(p.41)
そして、真緑さんはこのお米を作っている兎鍋村(となべむら)の喜田川農林高校に赴任することを決めます。
あの、あたし、兎鍋のお米が大好きなんです。詳しい話はしないけど、兎鍋のお米のお握りのおかげで、失恋から立ち直ることができたんです。ほんとに美味しくて、むちゃくちゃ美味しくて、こんな美味しい物があるんだったら、失恋にも耐えられるってお思っちゃったんです。
真緑さんが生徒の前でお米について語るシーンがあるのですが、失恋から立ち直らせてくれるご飯っていったいどんな味がするのでしょう。気になります。
また、真緑さんは高校で飼育している「201号」という豚と話ができます。この201号は脱走癖がある困った子なのですが、真緑さんと話している(?)ときはユーモラスで辛辣で、でもどことなく言葉に愛がある素敵な存在です。
「ちょっと、勝手に心の中を覗いたりしないでよ」
けっ。あんたの心なんて頼まれても覗きたくないね。
「だって、あたしの考えてることが……」
あんたは何でも顔に出るからね。わかりたくなくてもわかっちゃうんだよ。ふふふん、ふんふん。ふん。(pp.240-241)
本文の随所に出てくる真緑さんと201号の掛け合いを読むと、思わずクスっと笑ってしまいます。
真緑さんが失敗しながら葛藤しながら生徒たちとともに進んでいくお話は、元気をもらえるし、読み終わって心が温かくなりました。