『ロマンシエ』(原田マハ)読了

原田マハさんの小説『ロマンシエ』。

”ロマンシエ”とはフランス語で”小説家”のこと。


主人公は芸大生の遠明寺 美智之輔(おんみょうじ みちのすけ)。卒業後の進路を決められずにいたら、政治家の父から有力政治家の娘との縁談を持ちかけられ、途方にくれます。実は、美智之輔は同級生の高瀬くんに思いを寄せているのですが、自分のセクシャリティは誰にも明かしておらず、自身の言動と内面にギャップを抱えています。


そんなとき、パリへの留学話が持ち上がり、意気揚々とパリに行ったもののアーティストとして芽は出ず…


ある日、美智之輔はアルバイト先のカフェで憧れの作家である羽生 光晴(はぶ みはる)と出会います。光晴はある事情があってリトグラフ工房idemに匿われていました。美智之輔はリトグラフに魅了され、光晴のサポートをしつつ、リトグラフの制作に取り組むことになりますが、その後、事態は大きく変化していきます。


この作品を読んで真っ先に頭に浮かんだのが、「自分らしくいられる人や場所の存在は、人が生きていくうえでなくてはならないんだなぁ」ということ。


人は相手によって振る舞いを変えます。家族に見せる自分と、友達に見せる自分、同僚に見せる自分は違うはずです。


美智之輔は自身のセクシャリティを誰にも明かしていないので、「相手が望む自分」を演じたり、「相手が期待している(想定している)反応」をしたりしています。そのため、素の自分らしくいられる場所は基本的にありません。


美智之輔が抱えるギャップの苦しさは想像するに余りありますが、それでも「相手が望む自分を演じる」という点においては心の中で共感の嵐でした。



実は、この小説は実際に開催された展覧会と連動しています。

www.ejrcf.or.jp

https://www.ejrcf.or.jp/gallery/pdf/201512_idem.pdf

展覧会は東京ステーションギャラリーで2015年に行われたらしいのですが、今から7年前と言えば私は大学生。小説を読み終わり、この事実を知ったときは「あぁ、オンタイムでこの展覧会を見れなかったなんて…残念…」とがっかりしました。



このお話の後半の疾走感は飛びぬけています。特に美智之輔や光晴たちとその追っ手とのカーチェイスの場面では、ページをめくる手が止まりませんでした。


コメディなので思わず笑ってしまうシーンがたくさんあります。そして、思わず涙が止まらなくなる場面も。


笑って泣けて、ハラハラする素敵な作品です。