私は食べるのが好きですが、それは読む本にも影響しているようです。
冬森灯さんの『縁結びカツサンド』は勤務先の図書室の新刊コーナーに並んでいました。
「縁結び」と「カツサンド」が同時に並ぶという意外な組み合わせ。
カクカクとしていながらどこか丸みもあるタイトルのフォント。
そして見るからにおいしそうなカツサンドのイラスト。
一目ぼれでした。
そして、たいていぱっと見で一目ぼれした本は内容も当たりのことが多いです。
今回もそのパターンでした。
この本には「まごころドーナツ」「楽描きカレーパン」「花咲くコロネ」「縁結びカツサンド」の4つのお話が収められています。
舞台は東京・駒込の商店街。
3代続くパン屋さん「コテン」を中心に物語が進んでいきます。
駒込と言えば、私が東京で働いていたときに足しげく通った場所。「駒込の商店街」という言葉が出てきた途端、頭の中に駅前の商店街の風景が一気に広がり、懐かしい気分になりました。
この本の何がいいって、パンを食べるときの描写がとてもおいしそうなんです!
かじったとたん、大きな塊にいきついて、驚いた。じゃがいも? いや、やわらかい。ぎゅっとあふれてくるカレーにまみれてよくわからないが、にくだろうか。ひたすらうまみを噛みしめている気がする。にしてもこんなにやわらかくて、うまみだけがあふれてくるような肉なんて、今まで食べたことがない。(p.135)
あたしは、大きな口を開けて、コロネの太い方にかぶりついた。
ほわっと香る甘い香り。春の風みたいだ。とろけるような黄色っぽいクリームは、カスタードではなく、もっと身近な感じでなつかしい。時々カリッと音を立てるのは、細かいナッツのようだ。目を閉じて、春風の吹き抜けていくようなコロネを、全身で味わった。(p.202)
↑思わず食べたくなるような表現。今すぐコテンに飛んでいきたい笑
第1回おいしい文学賞で最終候補に残っただけはあります。
タイトル通り、4つのお話ではコテンのパンが人と人との縁を結んでいきます。
人生においては、いいご縁ばかりが結ばれるわけじゃない。でもそれすらもノーと言わずに受け容れていくからこそ、ひとは成長を重ねていけるのだろう。結ばれる縁も、結ばれない縁もある。ひとはやりきれない思いも、縁という言葉に託して、折合いをつけていく。(p.296)
コテンのパンのように、私も今ある縁を大切にし、また新たな縁を結んでいけたらいいなと思っています。