「金木犀がふわりと香る季節になりましたが、いかがお過ごしですか」
手紙を送るあてもないのに、こんな時候の挨拶がふっと頭の中をよぎった。
それほど、金木犀の香りというのは惹きつけられるものがある。
しかも、おもしろいのは"近くに行ってもそれほどいい香りはしない"ということだ。
我が家には金木犀の木が3本あるので、小さいころ試しにあのオレンジ色の小さな花を枝からとって匂いをかいでみたことがあったのだが、あまり香りはしなかった。
木の姿は見えないのに、急に、どこからともなくふっと鼻腔をくすぐるあの甘い香りが金木犀の最大の魅力なのだろう。
匂いを司る嗅覚というのは不思議なもので、「生理的に無理」という感覚は嗅覚によるものであることが多いのだそうだ。
嗅覚はより原始的な感覚に近いらしく、匂いの記憶は最も人間の中に残りやすいのだという。
『源氏物語』に出てくる薫の君ではないが、周りの人を心地よくさせる香りを身にまとっていたいものだなぁ、と思う今日この頃。